市場の選択


写研

文字組に関しては極まったシステムだったようです。僕自身は世代が違うので触れていませんが。photo by h_okumura

僕が就職活動をしていたのは十数年前ですが、
その頃は面接先の印刷屋に写植機が置いてありました。
ひと文字ずつ選んで、ガチャコンと印画紙に焼き付けるわけです。
大手や中堅はDTP(パソコンを使った印刷)に移行済みでしたが、
街の小さな印刷屋では、まだギリギリ、職人仕事が残っていました。

大先輩のデザイナー家串正美さんと飲んだ時に、
一昔前のデザイナーの技量や修行をお伺いして、仰天したことがあります。
ハッキリ言って、僕にはとてもこなせない超絶技巧。
「まっすぐ線を引く」だけでも、その背景には職人の技量と研鑽があったのです。

そんな、職人の技量がものを言う時代に、写研という会社がありました。
今も存続していますが、忘れられつつあります。
写植機というシステムで、日本の印刷業界を席巻したかつての王者は、
会社の方針として、DTPに移行することを拒んだのです。

その選択は、仕事の質や職人としての矜持が背景にあったようです。
文字組は奥が深い。一貫したシステムの方が、美しい仕事ができる。という考え方。
2000年に発表された「本蘭ゴシック」は、
組版の経験者が見れば、息を呑むような美しさです。
その仕事の品質に文句を付ける人は居ないでしょう。
http://www.station-s.co.jp/lhga.html(ページ下部のPDFから確認できます)
事実、今も写研書体はファンが多い。
業界全体がDTPに移行した今現在は扱いにくいにも関わらず、
出版や放送の業界では使用例があります。

でも、市場はDTP(デスクトップ・パブリッシング)を選んだのです。
パソコンに書体を入れて、ワープロソフトでサクサクチラシを作りたい。
そんな顧客の要望に応えたDTPが、市場を塗り替えた。
仕事の質や技術よりも、市場の都合が上回るという事例です。

一方、仕事の質を芸術レベルまで昇華させて、
ナンバーワン&オンリーワンの地位を築くなら、
規模は小さくても仕事には事欠きません。
市場の動向とは別次元の安定性を得ることになる。
これもまた、仕事の在り方です。

市場の流れを追う。仕事の質を磨く。
どちらも大事なことです。
自分がどの場所に居るのかが分かっていれば、
適切な方針を選ぶこともできるでしょう。

動画屋の僕も、日々バランス取りに腐心しています。
仕事の質はとても重要だと考えている。
しかし、質の良い動画さえ作ればなんとかなるとは、微塵も思っていない。
技量も品質も、僕より上はいくらでもいる。
危機感があります。
僕の仕事は、容易く誰かに取って代わられるものになっていないか、と。
手を動かしつつ、思案する日々。
差別化のカギは何処にある?
オンリーワン&ナンバーワンはどうすれば手に入る?

(‘-’)

もしも、ある会社の社員全員が、この危機感を共有していれば、
さぞ圧倒的な力を発揮するでしょう。
本当は、社員1人ひとりにとっても、他所事じゃないのです。
安住していれば気づきにくいですけどね。

(‘o’)

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